対話で学ぶG

■平和的生存権と戦争放棄

イッ ペイ:「広島は初めて?」
カズコ:「そうよ。修学旅行のような機会がないとなかなか来ないもの。それにしても、ここの展示はショックね。」
イッペイ:「原爆ドームは原爆の残酷 さをそのまま今まで伝えているけれど、この平和記念資料館にも、生々しい資料がたくさんあるね。」
カズコ:「ぼろぼろになって血がべったりついたような服とか、ケロイド(注:やけどややけがで皮膚が赤く引きつった状態もしくは盛り上がった状態になり、 自然には治らない。)で赤く染まった背中の写真とか、とてもリアルで、心の底から、『戦争なんか、決してしてはいけない』って思った。」
イッペイ:「僕たちと同年代の生徒た ちが勤労動員(注:第二次世界大戦末期、国内の労働力不足を補うため、「勤労即教育」という建前で、現在の中学・高校 生が軍需工場(爆弾や飛行機などの兵器を製造する工場)や軍事施設で働かされた。親元を離れて、遠方の工場まで派遣された生徒も多い。軍需工場は、空襲の 標的にされたことが多く、原爆のみならず、空襲の犠牲になった生徒も多い。勉強よりも、戦争への協力が優先された。)された先で被爆したことも多かったよ うだね。子供の遺体もみつからないで、悲しんでいるご両親の話も展示されているし。」
カズコ:「うちのお祖父さんは、空襲で焼け出されたらしいんだけど、家族で逃げ惑っているうちに、妹がはぐれて、そのまま見つからなかったんだって。」
イッペイ:「海外では、日本軍もずい ぶん残酷なことをしたらしいね。」
カズコ:「軍人・兵士だけでなく、民間人まで虐殺したとか、捕虜を虐待したとか。」
イッペイ:「平和なときには、人殺し は罪なのに、戦争ではなぜ人を殺していいんだろう?」
カズコ:「いいわけないわよ。戦争をしちゃいけないのよ。国益だとかなんとか言っても、人の命が一番大事なんだから。」
イッペイ:「基本的人権だとか法の下 の平等だとか言っても、命が危険にさらされれば、人権どころではないからね。平和こそが人権の最低限だね。」
カズコ:「だから憲法で、『もう戦争はしない』って決めたんでしょう?」
イッペイ:「戦争放棄(注:9条条 文)のことだね。前文にも、『政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し』とあるか ら、国策のために政府が戦争を起させないように決めたんだね。」
カズコ:「政府に戦争を起こさせないように、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。』と、軍隊を持たないようにきめたんでしょ。これって自衛のた めの戦争もできない、っていうことでしょ?」
イッペイ:「そうだね。明治以来の日 本の戦争を振り返ってみても、日本の国土が侵略されたことはないのに、『満蒙(まんもう)(注:日本が建国した旧満州 国。中国東北地方と内モンゴル自治区からなる。)は日本の生命線(20世紀初め帝政ロシアの南下政策を食い止めるため、日露戦争を闘い、南満州鉄道の権益 を獲得した。日韓併合後、ロシア革命により共産主義化したソ連に対する防波堤の位置づけになった。)』とか言って、満州事変(注:満州の軍閥が中国寄りの 姿勢を取り始めたことを危惧した関東軍(満州駐留の日本陸軍)は軍事行動を起して、満州全土を占領した。)は自衛戦争という大義名分で起こしたものだから ね。自衛のための戦争もできなくしなければ、戦争はなくならない、ということなんでしょう。」
カズコ:「アメリカでは銃の所持が認められているから、年間1万人以上(注:約1万2千人)の人たちが銃で撃ち殺されているんでしょ(注:総殺人事件数約 1万8千件)。日本の殺人事件数約1,200件(注:うち銃での死者は50人以下)に比べて、はるかに多いよね。武器を持っているから使いたくなるんで しょ。」
イッペイ:「そうだね。日本でも、 『護身用(ごしんよう)』とか言って持っていたナイフで人を刺した学生が何人かいたからね。」
ヒデキ:「そんなこと言っていて も、外国から攻めてきたらどうするんだい。軍隊がなければ、国民は守られないよ。」
イッペイ:「ああ、ヒデキか。やっと追いついたね。そういうときのために自衛隊があるんじゃないのか?」
カズコ:「何言ってんのよ。戦力の保持は憲法で禁じられているんでしょ。」
イッペイ:「そうは言っても、今の国 際情勢では、軍隊がなければ、国際交渉で強い軍隊を持つ国の要求に屈してしまうし、自衛隊は空母や爆撃機など、他国を 侵略できるような装備は持っていないし、国を守る必要最小限の実力なら、『戦力』にはあたらない、という考え方もあるようだし。」
ヒデキ:「核兵器を開発したりす る危険な国がいくつかあるのだから、そうした国の不穏な動きを力で抑えなければ世界の平和は維持できないよ。今の日本は大 国の傘の下にただ乗りしているようなもので、日本も世界平和に積極的に貢献しなければ常任理事国(注:国連安全保障理事会、米国、英国、フランス、ロシ ア、中国の五大国により構成され、決議に対して拒否権を持つ。)に入れないよ。」
カズコ:「軍事貢献だけが国際貢献じゃないでしょ。外国の大地震の後などに自衛隊を災害復旧のために派遣したり、大勢のNGO(注:政府機関でない民間の 団体で、軍縮、飢餓(きが)救済、環境保護などの問題に関する活動をしている。)やボランティアの人たちが戦災者や被災者を助けに行ってるわ。日本が海外 で軍事力を行使したりすると、第二次世界大戦で日本軍から被害を受けた東アジアの国々が怒るわよ。」
イッペイ:「とりあえず、今自衛隊を なくしたら、不安だし、憲法の平和主義の理念を高く目標として掲げて、必要がなくなるまで、当面自衛隊はそのままにし ておく、ということでどうかな。」
カズコ:「さっきは、自衛のための戦争もすべきでない、って言ってたのに、ずいぶん日和見(ひよりみ)的ね。でも、9条があるから、軍事費がGDP(注: 国内総生産、国内で生産される物やサービスの付加価値の合計額)の1.0%程度で済んでいるんでしょ。アメリカは4.1%だし、イギリスは2.6%くら い、ヨーロッパで一番少ないドイツでも1.4%よ。軍事支出を2〜3倍に増やしたら、年金や生活保護などの社会保障が削られるわ。私たちの生活はどうなる の!」
ヒデキ:「日本の企業が武器をた くさん外国に輸出できるようになれば、日本経済も豊かになるよ。」
カズコ:「でも、もうかるのは会社だけで、私たち一般市民は豊かになるどころか、貧しい人たちはますます貧しくなるじゃない。」
イッペイ:「これまで9条があったか ら、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争などで武力行使しなくてすんだし、軍事費もあまり使わないですんだ分、国民生 活が豊かになったのじゃないかな。国際紛争を解決するために武力を行使しないと決めてあるから、貴重な人命が失われずにすんでいるんじゃないのかな。」

 

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