対話で学ぶD

■表現の自由の意味

息子:「今日の伯父さんのお通夜は、自宅でやるの?」
父:「いや、お寺らしいが、自宅から歩いてすぐだから、自宅へ送ってくれればいいよ。」
息子:「ずいぶん急だったね。 前から具合が悪かった?」
父:「前から癌だということは聞いていたけれど、最近になって急変したらしい。」
息子:「伯父さんは、最後は経 済部の記者だったんだっけ?」
父:「うん。政治部が長かったけれどな。政治部はきつかったらしいよ。張り込んで政治家のコメントをもらわなけりゃならないこともあったから。」
息子:「それは、雑誌記者も同 じでしょ?」
父:「そりゃそうだ。政治家に限らないけど、取材していると『プライバシーの侵害だ!』とか、『名誉(めいよ)毀損(きそん)で訴えるぞ!』とか、よく怒 られるよ。」
息子:「でも、報道の自由があ るじゃないの。一般国民の『知る権利』に応えるためにマスコミがあるんじゃないの?」
父:「そりゃそうだが、報道の自由と名誉(めいよ)毀損(きそん)、プライバシーの侵害とは紙一重だ。報道の自由が保障されているからと言って、個人の秘 密を暴いたり、名誉を侵害したりするのは、人権侵害になりかねないから、慎重に考えなければならない。その事実を公表した場合の公共の利益と侵害された個 人の権利とのバランスを考えなけりゃならないんだ。」
息子:「政治家の娘が離婚した とか。」
父:「政治家本人の離婚ならともかく、娘の離婚というのは、プライバシーの度合いが高くなるからね。小説家が友人から聞いた話を元に小説を書いて、出版が できなくなった事件があったが、それも、その小説を読めば、誰から聞いた話か特定できてしまうかららしい。」
息子:「そうやって書いてから 裁判を起こされたら、書くのをためらってしまうんじゃないの?」
父:「そりゃ、書くときには慎重になることもあるけれど、ためらってばかりいたら、報道の使命は果たせないからな。汚職やら、談合やら、年金の問題など、 公共性の高いことは、恐れずに書かなきゃならない。主権者である国民に伝えるべきことを伝えないと、選挙や憲法改正国民投票のときに、国民が正しい判断が できないからね。」
息子:「以前、一緒に集会を開 いた市民団体の人が、米軍基地の中が見渡せるマンションの非常階段に立ち入って米軍基地の中を写真撮影していたら、突然警察官が現れて、住居侵入で現行犯 逮捕されてしまったことがあったけれど、マンションの住民が誰も通報していないのに、警察官が活動家の後をつけて来て、逮捕されたらしい。明らかに思想を 取り締まっているとしか思えないような事件だね。こういうことをされると、活動しづらくなるね。」
父:「マンションの非常階段と言っても、勝手に他人の家に立ち入ることは、住居 侵入罪に問われる恐れがあるが、この事件では警察が住居侵入罪 を利用して表現活動を制限しているよう に見えるね。自衛隊が、イラク派遣反対の集会を調査して、レポートを作ったという話もあったし、最近思想や表現活動に対する監視が強まっているね。」
息子:「国の方針に逆らう人 は、国から目をつけられますよと言われているようで、一般の人たちは、国の方針に逆らう発言をするのをためらうようになるんじゃないの?そうなれば、国が 国民の表現活動を監視するということは、集会・結社・言論・出版などの表現の自由が圧迫を受けるということになるよね。」
父:「表現の自由への圧迫だけではなくて、国の方針に逆らう思想をもつこと自体が危険なことのように思う人が出てくれば、国民が洗脳(せんのう)されかね ないよね。思想・良心の自由も圧迫を受けてくるんだ。戦前『非国民』とかののしられて、戦争に突き進んでいったときのようにね。」
息子:「さあ、着いた。ここで いいかな?」
父:「渋滞に会わなくて助かったよ。」
息子:「終わったら、電話くれ れば、迎えに来るよ。」
父:「ありがとう。」

 

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