10月2日午後1時10分富来訴訟第2回口頭弁論が開廷された。すでにNHKでも報道された鶴来出張所の統廃合に対する差し止め訴訟が1時に提訴される予定となっていたため、裁判所前は石川県中の全テレビ局や新聞社のカメラの放列が敷かれていたそうである。そして、この両訴訟ともたまたま原告側代理人が同じ弁護士という、弁護士にとってはなんとも効率的な訴訟になったということのようである。
例によってテレビ局の要請で、裁判所入廷シーンのやらせに協力した清水相談役は、すでに何回か経験していることもあり、この際法務省に対し、「法務省見ているか、まだまだやるぞ・・」という気持ちを伝えるために、常に写りの良い場所に移動していたようである。
さて、法務省側の代表者と思われる人は、法務省訟務局行政訴訟第2課の参事官ということで、いままでのように地元法務局に任せるわけにはいかないという法務当局の意気込みが感じられたが、それは富来訴訟が、登記所の廃庁という行政処分の取り消しを求めたものでなく、登記所の統廃合により被った精神的な苦痛に対して損害賠償を求めるというものであることから、現在行われている後藤訴訟や伊勢原訴訟と違って、直ちに本案へ入れる事案という可能性が高いことからの体制かとも感じられた。しかし、あにはからんや被告側の答弁書は、全くひどいものということである。
被告側は答弁書の中で、国賠法の保護の対象となるべき権利も利益もないと弁論したようである。そこで原告側は、請求原因の認否もしないのかと追求したところ、被告側は国賠については答弁書のまま主張し、請求の原因については、今後一切何もしないわけではないが、原告側の請求原因をどう構成するのか新たな主張が為されれば反論すると答えたようだ。
被告の答弁に不満な原告は裁判所に対し、これは本案前の争いなのかと問いかけ、被告に対してなぜ登記所を廃止したのか述べろと詰寄ったところ、裁判所は,被告に反論を促さず、原告に対し、被告の主張に対する原告側の反論を聞きたいと述べ、もう少し双方の主張を聞くそぶりを見せたとのことである。
被告側の答弁書の中で、後藤訴訟の判決文に真っ向から対立しているくだりがある。「法務省・法務局の所掌事務のうち、登記に関する事務(以下「登記サービス」という。)のみが最も末端の組織である地方法務局の出張所まで所管が及んでいるが、前記諸法令が出張所を設置して登記サービスを手厚くした趣旨は、登記制度が出頭主義を採り、国民の権利義務に重大な影響を与え、取り引きの安全を図るものである事に鑑み、登記原因の存する地のできるだけ近隣で登記申請する機会をあまねく保障することにあると考えられ、これは法的に保護されるべき利益であると解される。」(平成10年3月3日旭川地方裁判所判決21ページ。「見捨てないで行政訴訟編」88ページ)との裁判所の判断があるにもかかわらず、「いったん設置された登記所を利用する個々の国民に、当該登記所を利用する権利又は法的利益を認める余地もないのである。」と法務省は今回の答弁書で主張する。
また、国民が登記所を利用する利益は、国が国の事務を遂行させるために出張所を設置した結果、この官署が一般公衆の利用に供された事による事実上の利益に過ぎないとし、登記所で登記手続を行う事ができるのも登記名義人の権利又は法的利益でなく、官署が一般公衆の利用に供されているという事実上の利益に過ぎないと主張する。
これでは去年の今ごろエージェンシー化に絡んでよく言っていた「国民のために法務局はある」という主張はどうなったのであろうか。民事月報での「国民に、利用してください」という巻頭言はなんであったのだろうか、こういうことなら登記に罰則を設けるべきではない、法務省は登記事務は早く放棄すべきではないか。
なお、 次回期日は、11月27日11時40分からです。法廷のやり取りも面白いですよ。尚、前日の11月26日は札幌高等裁判所で後藤訴訟の判決が1時10分から言い渡されます。11月28日は三重県会で一般傍聴も認めての統廃合の研修会です。
日本の行政の在り方そのものにするどく問いかけを行い、首相官邸をも動かすなど、登記所統廃合反対運動の理論面を支えた、兵庫県山崎・佐用の反対運動は、9月27日に神戸新聞に意見広告を掲載、その後、統廃合の強行には、訴訟で対抗する旨の警告書を神戸地方法務局へ送付、新社会党では訴訟の原告団募集まで始めていたが、官報には、10月12日龍野支局への統合が掲載された。
司法書士が監督官庁に逆らってまで、市民の側に立つ登記所統廃合反対運動をある学者が絶賛していたそうである。我々は誰から仕事を受託し、誰からその報酬をいただくのか、そのへんの素朴なことから考えてみよう。登記所のエージェンシー化がまた検討課題にあげられたようである。(川村記)
