ご好評の「見捨てないで」も、今回で50回目の発行になります。平成8年夏発足したばかりの統廃合対策委員会が執念で実施した全国キャラバンに始まる統廃合反対運動は、徐々に成果をあげています。当初は理解されなかった我々の運動も、全国各地を駆けめぐる中で、統廃合反対の理論が形成され、運動のノウハウを会得し、ついには裁判闘争へと常に発展しています。
一方で、新しく司法書士になった方、統廃合のことを知った住民、自治体関係者、政治家、これまで統廃合問題に関心のなかった同職に、この運動の原点を訴え続けることも必要なことです。私たちの運動の意味を理解され、共に行動する人が増えることによって、統廃合反対運動が大きな市民運動に発展することを祈念いたします。
(統廃合対策委員長小儀晃)
なぜ登記所統廃合に反対するのか、このテーマは運動を興し、継続し、成功させる重要なテーマには間違いない。記者が当初「登記所が統廃合されれば便利でいいことだ」と述べたとき、全青司執行部の誰も記者が納得できるような理屈を述べてくれなかった。それは当時はまだ理屈では表現できなかったものであったのだろう。
ある日突然、「この法務局をどこどこに統合する」と言われたとき、登記所の前に事務所を持つ司法書士は将来に不安を感じ、地元住民は地域の過疎化に拍車がかかることを怖れ、自治体は行政に支障が出るのではと考えたはずである。今まではあって当たり前の登記所がなくなるということは自分たちにどのような影響があるのだろうか、何も不安が解消されないまま運動はまず「とりあえず自分の地域の登記所の統廃合をやめてもらう」ところから出発する。
しかし、運動を始めると支持されるはずだと信じていた自分たちの行動に対し、他の地域の司法書士は冷たく、司法書士会も反応がない。政治家は行政改革だから我慢しろという、他の地域の住民は興味を示さない、そして自治体は地方交付金のために腰が引けてしまう。
運動がこういう形で壁にぶつかった時、そもそも法務局は何をする所なのか、登記とは何なのか、司法書士はなんのために存在するのか、そしてなぜ統廃合されるのか、どういう理由で対象地になったのか、統廃合は誰が決定するのかを自問自答し、やがては行政への疑問・不信となり、そして統廃合運動は地域エゴ・職業エゴの問題から国家の基本である国の民に対する役目とはなにかという問題に行き着くことになる。
反対の理由は当初は地域エゴ・職業エゴから始まることが多い。「なぜ我々だけが」しかし、それが地域社会とはなにか、法律とはなにかを考えさせ、やがては登記制度が国民の権利を保全するための制度であることが理解され、そのためには住民の身近な所に登記所が必要であることが理解されることになる。また、自治体にとって登記所がいかに重要な役所であるかも改めて理解されるであろう。
そして法務局はなにをしている役所かが理解され、国民は法律がいかに身近なものであるかを理解し、もっと法務局を利用するようになる。この国民の理解と支持こそが法務省が生き残るもっとも有効な手段でもあるはずである。
我々は地域社会と住民そして自治体のため、登記制度のため、司法書士制度のため、法務省のために今後も登記所統廃合反対運動を活発化させるであろう。
反対運動も裁判闘争という局面を迎えていますが、後藤委員の提起した裁判についてわかりやすく解説していただきたいと思います。解説は登記所統廃合問題研究所教授の東郷先生に、司会は川村委員にお願いします。
川村 後藤訴訟の論点についてはいくつかあると思いますが、登記所がなくなると住
民に不利益が生ずるということについて解説してください。
東郷 これはたとえば駅の東西に長いホームがあって、当初は東に改札口が設けられ
たとしますね。それを今度は西に移動したとします。東口に面する住民については、たまたまそこに改札口が設けられた反射的な利益(注)として、みやげもの屋や食堂が儲かったり、住民は楽だったということであって、もともとその住民のために改札口をそこに設けたわけではないということを法務省は言っているわけです。
川村 なーるほど、要するにたまたま登記所がそこに置かれただけで、それが移動し
たから、その前の住民や司法書士が不利益になったって関係ないということですか。
東郷 そうです。そもそも駅というのは、その周辺の住民のために設置されているの
ではなく、その路線の利用者のために設置されている、というわけです。利用者の中には、東京の住民が大阪駅を利用することもあるし、その逆もある。たまたまホームの周辺に住んでいただけで、改札口の移動によって不利益を受けるからといって、その者に法律上の利益があるわけではない、というわけです。……
しかし、改札口の近くの住民は、その改札口を通ればなにかの権利が保全されるとか、駅前の食堂は一年に一回はその改札口を通ることを義務づけられているとか、その改札口しか利用できないとかということがありませんね。これは国民の権利を保全し、また取引の安全円滑のために登記を義務づけている登記制度を司る登記所の話ですからねえ。
川村 うーん、登記所を改札口に置き換えるムリがすばらしいですね。
(注)行政事件訴訟法9条は、「処分の取消しの訴え…(中略)は当該処分の…(中略)の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができる。」と規定する。したがって、裁判所が原告の利益を、法律上の利益と認めない場合(それを事実上の利益といったり、反射的利益といったりする。)その訴えは、却下されることになる。
さて、今回より統廃合反対の理由について、いろいろと検証していきたいと思います。前にも述べましたが反対理由は各地・各人によって様々です。反対運動のきっかけは全国みな同じとは限りません。
そもそも法務省が統廃合をしようと思った理由ですが、正式には小規模な出張所を統合して支局レベルとし、登記事務の他供託・国籍・人権擁護などの事務を充実させるということが述べられ、実際に廃庁地域の住民や自治体にはそのように説明されています。政治家に対しては「行政改革の一環」であると説明しています。役所の数さえ減れば行政改革だというわけです。では本当の理由はなんなのでしょうか、内閣は行政組織や各官庁の持つ情報をコンピュータネットワークでつなげる方針を取っています。また、国土庁は地図を主体に各種行政情報を加えた一大データベースの確立を計画しています。
すなわち官庁のもっている情報を一箇所に集めて国が有効に使おうということです。しかし、その一箇所がどの官庁に属するかによって、その官庁の内閣における重要度・予算配分そしてその官庁の存在意義自体も同時に決まってしまいます。
法務省には登記情報という武器があります。法務省が生き残りデータベースを握るには、この巨大な国民の情報をコンピュータ化する必要があります.。
このコンピュータ化に要する費用については次回に詳しく述べますがかなりの額だと言われています。しかし、法務省に対する予算は増えず、コンピュータ化費用捻出のために設けた登記特別会計は謄本取得の需要激減のため、あまり当てにできなくなりました。
そこで考えられたのが、法務局の数を減らすということなのです。ちょうど500庁ぐらいに減らせば、今の法務省の予算と登記特別会計からの収入でなんとかなると思ったわけです。ではなぜ大都市の登記所を統廃合しないのでしょうか。
それは法務局職員が過疎地に行きたくないということと、大都市では用地取得や建物の建築に多額の費用がかかるということなのでしょう。
法務省の唱える理由について考えてみましょう。まず法務局の充実強化という点ですが、このことに関しては異論はないでしょう。しかし、そのような機能強化は住民の身近にあってはじめて役立つものです。かつて東京政連の幹部が人権庁構想を述べたことがありました。法務局は単に登記だけではなく、本来行うべきことを出張所レベルでも行うべきであるということです。確かにいじめの問題は、支局所在地だけで発生しているわけでなく、また農家では外国人との結婚も増え、やがては国籍の問題も各地域に起こってくるでしょう。法務局の強化は歓迎ですが、そのためには数を減らすというのでは本当に国民のことを考えた政策とは言えません。
次に行政改革という問題ですが、行政改革に反対するのが官僚というイメージからすると私たちには不思議な思いがします。それは職員の数が減り、部局が減るからですが、今回の統廃合では職員の数を減らさないという労働組合との約束を前提に行われています。中央官僚の退職金を減らせば何庁かの登記所が助かるとの話もあり、これが行政改革かとあきれかえりますが、政治家にはこの言葉が通用するようです。ちなみに広島県因島の住民説明会では行政改革になっていないと攻撃され、以後行政改革であるとは住民には説明していないようです。
コンピュータ化にかなり高額の費用がかかるという問題についても、今の世の中そんなにかかるのかという疑問が湧きます。しかし、法務省は開発段階から携わった某企業に対し、義理があるらしく客観的には高いと思われるリース料を払い続けるそうです。いくつかの企業を入札することもしないようです。それよりもなによりも、そのような高い費用を使って本当にコンピュータ化が完成するのでしょうか、それだけのメリットが国民にあるのでしょうか。法務省のバラ色な説明が不安です。次回に検証しましょう。
鹿児島県の大口・栗野両出張所の統廃合反対運動は、一市五町で栗野出張所を存続させるため、運動を一本化することに決めたそうだ。また静岡県伊東市の熱海への統合も延期されているようだ。ここは人口も事件数も圧倒的に伊東が多いということだが、三島に官舎があることから熱海への統合計画が浮上していると言われている。先日統廃合問題に関するシンポジウムが行われた郡上八幡では、早速シンポジウムの様子が本局へ報告されたそうである。
先日税務調査がありました。売り上げ激減のためらしいです。
でも話題は登記所の話ばかり、税務署員も登記所が苦手のようでした。(川村記)
